
スタンスにまつわる話を特集するSTANCE. LAB LIBRARY、24-25シーズン第6回は、プロスノーボーダーの角野友基さん(以下、角野さん)にお話を伺いました。現在はジャクソンホール(アメリカ)を拠点に活動する角野さんは、かつてパークライディングで輝かしい実績を残し、現在はフリーライドを中心としたスタイルへと転向。その過程で培ってきたスタンスやセッティングへの持論を語っていただきました。

パークから山へ、スタイルの変遷とともに進化するセッティング
「今は完全にパークをほとんど滑っていないんです。今住んでいるジャクソンホールにはパークもありますが、サイズ感的には5〜6メートルと10メートル以下の2連ジャンプだけなので。基本的にはフリーライドをメインにスノーボードをしている感じですね」
───スタイルの変化は、セッティングにも反映されていますか?
「めちゃくちゃ変わってますよ。パークをメインにしていた頃は、前足が+6〜+9度、後ろ足が-9〜-12度。でも今は、前足が+12度、後ろ足が-6度という完全に違うセッティングになりました。今までは前足を9度以上開いたことがなくて。それはずっとスイッチで滑ることが頭の片隅にあったからです。でも最近はレギュラーで山を滑ることがメインになっているので、昔のコンペ時代にセッティングに求めていたものと変わってきたなと感じています」

スタンス幅0.5センチの違いにこだわる繊細な感覚
「ゲレンデで滑るときは52cm、パウダーを滑るときは52.5cmなんです。これが53cmだと気持ち悪いし、力が逃げる感じがする。でも52cmだとパウダーでは調子がイマイチ。たった0.5cmなんですけど、広げるだけで浮力が全然違うんです」
───STANCERの計測結果は角野さんにどういう影響を与えていますか?
「STANCERの結果というのは、感覚に対する科学的裏付けだと思ってます。自分の感覚とSTANCERの結果を照らし合わせて、自分の感覚が間違っていないことを確信して、自信がついてそれが滑りに繋がっていくようなイメージです」
STANCERの理論とライダーの感覚は一致する
「体で表現する人(ライダー)と頭で考える人(開発者)、二つのアプローチがあると思うんです。ぼくはやっぱり常に体で考え、行動し、感じたことを翻訳して言葉にする。一方、開発チームは理論的に頭で考えてプロダクト(STANCER)にして提供する。この2つって全然違うように思えるんですが、自分の感覚で作ったセッティングとSTANCERの結果がほぼ同じになるということは、突き詰めると、たどり着くところは同じなんです」
───つまりスタンスやセッティングを考える上で何が一番大事なのでしょうか?
「結局、スノーボード=体を動かすことなので、体の機能を100%スノーボードに伝えられることがスノーボードをうまくコントロールできている状態だと思います。だから、体のパフォーマンスを100%発揮できる状態を目指してセッティングやスタンスは考えないといけません」

ATV (All Terrain Vehicle) を目指して
角野さんが目指すのは、あらゆる地形、コンディションで活躍できる「ATV」(All Terrain Vehicle)というコンセプト。
「ATVっていうのは四輪駆動のバギーみたいな車のことを指すんです。その四輪駆動のバギーっていうのは、何でもできるし、どこでも行ける。雪でも行けるし、泥でも行けるし、コンクリートの上でも行ける。ぼくが求めているのはそういうスノーボード。何でもできるのがかっこいいと思っています。だから、ぼくの中でセッティングの重要性は、自分のポテンシャルを引き出すこと。自分の体のキャパシティ、ポテンシャルを知った上で、それを100%使えるポジションを板の上で再現できているか。それが重要です。雪質とかに合わせるのではなく、自分の体に合わせるんです」

セッティングと体の関係性
「多くの人は『このボードはこういう形でこうだから、この位置に乗るセッティングがいいんじゃないか』という感じで板にフォーカスしがちです。でもぼくの場合はそうじゃなくて、『自分の心地いいセッティングは、どの板に乗っても同じ』です。なぜなら、そのボードの100%を引き出そうと思ったら、ぼくが100%のパフォーマンスを発揮できるセッティング・スタンスでなければなりません」
───それは板の形状がディレクショナルの場合でも同じなのでしょうか?
「テールが10センチぐらいしかないフィッシュみたいなスーパーディレクショナルなボードに乗るときも、セッティング自体は全く一緒です。乗っている位置は真ん中気味なのか後ろなのかは、さすがに変わってきますが、基本のスタンスの角度と幅は変わりません」

さいごに:角野友基が考えるセッティングの本質
「いかに自分の体のパフォーマンスを100%引き出せるかというところにあります。ボードの特性や推奨セッティングよりも、まず自分の体のポテンシャルを最大限に発揮できるポジションを見つけること。そして、そのセッティングをベースに、様々な環境やコンディションに対応していくことが重要だと思います」
