「セッティングが技術論を越えるかもしれない」スタンスを研究し続ける谷口尊人の斬新な切り口┃STANCE. LAB LIBRARY Vol.5

「セッティングが技術論を越えるかもしれない」スタンスを研究し続ける谷口尊人の斬新な切り口┃STANCE. LAB LIBRARY Vol.5

yukiyama

2024.10.29

スタンスにまつわる話を特集するSTANCE. LAB LIBRARY。24-25シーズンがスタートします!

連載5回目は、スノーボード業界で多方面に活躍する谷口尊人さん(以下:尊人さん)にスタンスについてお話をうかがいました。尊人さんは競技者としての輝かしい実績がありながら、スノーボードにおけるYouTubeでの発信においてもパイオニアであり、現在のシーンに影響を与えてきた人物です。スタンスやセッティングについても独自の持論がある、尊人さんならではの切り口でスタンスを紐解いていきます。

滑りに直結するスタンス

左と右で違うバインディングを使ってみたり、試行錯誤を昔からたくさんしてきましたが、正直言うと違いが全然分かりませんでした。ハイバックを倒しても浮かせても、そこまで変わってる感じがせず、プロライダーの真似をしたりしてみましたが、違いが分からなかったんです。競技の現役を辞める時まで、そのような感覚が続きました。競技を退いたあとに、STANCERをやった時にはじめて「ニュートラルポジションが人によって違っていて基準値がある」ということが分かり、それに基づいてセッティングを考えることが大事ということに気づきました。STANCERをやってみるまで分からなかったんですよね。それが分かってから滑りに直結するセッティングを編み出せるようになり、そのスタンスやセッティングを考えることが楽しくなりました。

「車」の考え方とスノーボードの共通点

自分の中でスタンスの捉え方の答えがあって、それは「車」です。ぼくのセッティングオタクなところは車からきています。なぜ車からきているのかというと「曲がる」「加速する」というのを長く研究してて、一番お金を使っているのが車の業界なので、そこの研究結果というのは一番進んでいるはずなんですよ。車がタイヤのグリップを使って曲がっていく原理は、スノーボードにも通ずるところがあって似ていると思います。車のタイヤって摩擦抵抗が高くなってるところが一番グリップが強くなります。でも、その限界を越えた瞬間にスピンします。これはスノーボードでもほぼ同じで、カービングで圧をかけていって、ある限界を越えたところでエッジが抜けてコケる瞬間がありますよね。そういった意味では車のセッティングの考え方はスノーボードに応用できると思っています。

神立の朝イチのバーンでカービングを楽しむ

───スノーボードへの応用というところで具体的なイメージはありますか

例えば、大会でいつもの滑りができないことがあると思います。いつもと同じ体の動きはできていると仮定すると上手くいかない原因は、いつもと同じ「条件」で滑れていないことが考えられます。コンディションにあわせたセッティングを施して、普段練習している感覚のグリップ力がある状態に合わせられれば、いつもと同じ動きで滑れるはずです。条件が同じ前提で、感覚で頑張ってしまうので結果が振るわないということが起きたりします。だからホームゲレンデでは上手くいくのに他のゲレンデに行くと難しいとかよくありますよね。車のレースでも雨が降ったらレインタイヤを履くじゃないですか。いつもの走りをするためには、周りの環境に合わせたセッティングが重要だということです。

環境に合わせたセッティングの重要性

───いくつかセッティングのパターンがあって、そこから選ぶのでしょうか

パターンで考えるという感じではなく大事なのは「環境に合わせる」という回答になります。また車の話になってしまいますが、車ってレースなどのシビアな場面では1mm単位で調整してるんですよ。車でさえそんなに細かくセッティングができるのに、スノーボードのバインディングってスタンス幅とアングル、ストラップの位置、ハイバックの角度とローテーションくらいしかないですよね。もっといろいろ変えられるポイントがあればいいのになといつも思っています。

自身が使っているスノーボード

───細かい調整を毎回するのは難しそうに思えるのですが、どうでしょうか

そこは僕も同じようなことをもちろん思ってるんですけど、でも皆さんトリックをやる時にイメトレで体を動かしたりしますよね。その中で前への重心を意識しないといけない場面があったとして、それを技術的に改善しようとしているのであればスタンスをそもそも少し前に移動してしまえばいいはずなんですよ。とくに重心移動の意識に関してはスタンスなどのバインディングの細かい設定で、かなり楽に課題を解決できると思います。言葉を選ばずに言うと「うまく滑りたいなら面倒くさがってはいけない」ということですね。オフトレ施設で手の位置や角度をすごく細かく考えるのに、スタンスの3度の差はなぜ気にならないんだろうと思うこともありますよ(笑)。

代名詞の”マサカリ”

身体の特徴とセッティングへの向き合い方の関係性

特徴が異なる2つのパターン

スノーボードへの向き合い方は大きく2パターンあると思っています。1つは「前回滑った時のターンが気持ちよかったので、またあれを味わいたい」っていう前回の気持ちよさを再現したい人。もう1つは「今日はこれを試そう」という昨日の自分より新しいことを試したい人です。上手くいかなかったときの感じ方がそれぞれ違っていて、前者は「もっと体が動いていればできた」と思い、後者はいろいろ考えますが「思っていたのと違うな」と感じるタイプです。実はその向き合い方はSTANCERの可動域に現れていて、前者は『マルチスタンス』と呼ばれるアングルの差が少ない人たち。後者はギャップと呼ばれるアングルの差が大きいタイプの人たちです。それは統計で大体取れています。マルチスタンスの人は、違和感に対して敏感な人たちなので、体で分かる感覚タイプの人ですね。自分がどっちのタイプか知っておくと、セッティングへの向き合い方が理解できます。

ルールが無くても存在する共通点

スノーボードには絶対的なルールがありません。タイムを競うのかスタイルを競うかでは概念が大きく違いますよね。ただ、「もっと楽に滑りたい、上手く滑りたい」という部分はどんな人にも共通しているものだと思います。向上心がある人は、常に新しい感覚や気持ちよさを体験できたらいいなと思っているはずで、それを探すために滑走日数を増やしたり技術を学んだりしているのであれば、スタンスなどのセッティングについても積極的に研究したほうがいいのではないかと思っています。

UZUMAKIでの1枚 photo by Keiji Okamoto

セッティングを再現性のある形で他者に伝える

───現在、スタンスを考える時に意識していることはどんなことでしょうか

感覚的な話を他の人でも再現性があるように言語化してアドバイスしていきたいです。例えば、ショートターンに課題がある人に対しての場合の話をすると、ショートターンだと、両足ともノーズ側に寄せるだけで劇的にショートターンがやりやすくなります。バインディングの位置を調整してレスポンスを良くするだけでかなり変わるので、そういうアドバイスができる引き出しを増やせるように滑ろうと意識しています。

───ご自身のショップ『SLIDE LINE』にて、お客様に展開しているのでしょうか

そうですね。STANCERの稼働域を見て、こういうタイプのお客様だったらこういう風に説明すると分かりやすいかなというのを考えながらお勧めしていくっていう感じです。できるだけロジカルにアプローチしたいですね。

───お店ではどんな相談が多いのでしょうか

ブーツが多いですね。正しいブーツ選びができていればいるほど先述のセッティングの効果もあがります。例えば、持っているスノーボードのパワーの最大値が1,000だとしたら、そのパワーを最大に引き出せるかはブーツ選びにかかっていて、そこに対してスタンスなどのセッティングが変数で入ってきます。板とバインディングとブーツの3つが上手く機能してはじめて、道具の実力をマックスまで引き出すことができます。

ギアについて丁寧に接客をする

───そこにスタンスはどのように作用するのでしょうか

スタンスは体のエネルギーをどうスノーボードに伝えて反応させるかをハンドリングしています。もしフルパワーで滑りたい場合は、それに適した設定にしなければなりませんし、もっと穏やかな滑りを好むなら、そのように扱える設定が必要です。必要なパワーが1,000のではなく、場合によっては700や500の方が適している場合もありますよね。

この考え方は車にも当てはまっていて、例えば下り坂の多いコースではエンジンのパワーをフルに使う必要はなく、むしろ馬力を落として軽くしたほうが曲がりやすいことがあります。

ブーツ加工のお客様たちとの滑ろう会

セッティングが技術論を越える日がくる可能性

スノーボードで空力を重視する人はほとんどいません。例えば、ダウンフォースを利用してカービングの速度を上げるといったアプローチは見られません。こうしたパーツが開発されてもおかしくないのですが、実際には存在しません。スノーボードでは技術論が主流を占めていて、セッティングはそれを補う役割に留まっていますが、セッティングの重要性は技術論と同じくらい大きいと思います。

また車の話になりますが、例えば、F1においては専門のメカニックがいて、セッティングを考えるプロフェッショナルがいます。スノーボードにも、ワックスなどのチューンナップ専門の職人はいますが、セッティングを考えるプロフェッショナルはいないですよね。なので、スノーボードのセッティングはまだまだやれる余地がたくさんあると思っています。技術論以上にスタンスなどのセッティング論が盛り上がってくることに期待しています。

お店に行けばセッティングのマニアックな話を聞かせてくれる

お知らせ:STANCERのアップデートについて

今シーズンのアップデートテーマは「デジタルとアナログの融合」です。デジタル面では、AIを活用して過去のSTANCER計測データを分析し、個々の体型や可動域に合わせたアドバイスやギア推奨を提供する「ジャイロマンAI」をアプリに実装。アナログ面では、計測結果ページに「教えて!ジャイロマン」Q&Aを開設し、ジャイロマン本人が直接回答します。また、韓国語対応、多言語モードの追加、UIの改良など、初心者からプロまで満足できる内容になっています。

参考画像

コラボイベントを実施

毎年恒例のビッグイベント「STANCE.LAB DOPE」が今シーズンも開催!シーズンインの第一弾として、10月25日のイベントスタート日に大型アップデートされたSTANCERを測ってフォームから応募するだけで、今シーズン使える豪華リフト券240枚が当たります!

開催期間::10月25日(金)〜11月30日(土) 

応募方法::期間中にSTANCERを測定し、イベントページのフォームから応募

詳細はこちら:https://yukiyama-web.com/event/stancelabdope1-2025/