毎月、スタンスにまつわる話を特集するSTANCE.LAB LIBRARY。連載1回目の今回は主にカービングの分野で活躍されているプロスノーボーダーの平間和徳さん(以下:ラマさん)に自身のスタンスについての話を伺いました。ラマさんは、多くの人とスノーボードの楽しさを共有することを目的に、カービングを中心に全国でその魅力を伝えています。ラマさんをご存知の方であれば、前振りのスタンスでなんでも器用にこなしてしまうイメージがあると思います。その滑りやセッティングに行きつくまでに、どのようなプロセスがあったのか紐解いていきましょう。
ラマさんにとってのスタンスやアングル
そもそもスタンスや角度を決めること自体に抵抗がありました。元々スキーやスケボーをしていたこともあり、足の角度を固定されると動きにくくなりそうな感覚を持っていたのですが、スノーボードの特性上、足を固定してセッティングを決めなければならなかったので、スタンスやアングル(角度)と向き合うにようになった覚えがあります。その中で、次第に動きやすいアングルと動きづらいアングルがあることに気づき「この差は何だろう」と考えはじめ、いろいろな組み合わせを試すようになりました。次第に、動きやすい時と動きにくい時の角度差が明確になり「前振りの状態だと何がやりやすくて何がやりづらいのか」が体で分かるようになって、スタンスや角度を考えて滑ることが遊びの一つになりました。
フィーリングを基にした試行錯誤の連続
例えば、昨日滑った角度と今日の角度を変えてみて、調子が悪ければ元に戻してみる。違和感を感じるたびにセッティングを変えるという形で毎日、試行錯誤していました。何か違うと感じる度に、1日の中で2、3回は角度を変えたりしていましたね。「どんな動作をする時にどの角度が適しているのか」を見つけるためにデータを取りはじめました。そのデータを基に「特定の角度だとA、B、Cの動作ができるけれど、Bはできない」とか「別の角度だとAとBは大体できるけれど、Aに特化できる」といったことを見つけ出しました。その中で自然と前振りの角度に落ち着いていったんです。
カービングに特化したスタンスの追求
カービングがやりやすいスタンスと角度の設定を考えていたので、まずは「体を倒した時にブーツが地面に当たらないような角度は何度なのか」ということを考えました。机の上にスノーボードを置いて角度を測ったり、実際に乗ってみて、徐々に前振りの角度に調整していきました。そこで、カービングには特化できたのですが、その結果、スイッチ方向のライディングやスイッチ着地などがやりづらくなってしまいました。このやりづらさをどう埋めるかについては結構考えましたね。
従来の概念に縛られない発想
先述のやりづらさをどう埋めようかと考えていたのですが「スイッチを滑る時にレギュラーと同じ形にならなければいけない」という常識を捨てました。一般的にはスイッチはダッグスタンスにしたほうが滑りやすいという認識だと思いますが、前振りでも後ろの向き方を変えれば滑りやすい体勢はありますし、リバースターンもやれます。滑り続けることで、気づいたらアングルを意識する必要がなくなっていました。自分がどんどん適応していくので、前振りでもスイッチランやグラトリができるようになっていたんです。結論を言うと、一つのアングルで様々な動作をやったおかげで体の対応力が上がって、自分の好きなアングルでやりたい滑りができるようになるということです。
───体が適応してくるというのはラマさんがすごく上手いということですよね
いえ、表現でいうと「しつこい」が適切かもしれません。しつこくやり続けることによって体が適応していったり、新たな概念が生まれてきました。頑固なんです。
ラマさんの具体的なセッティングについて
現在のスタンスのポジション・設定
yukiyamaアプリで数値を公開しています。レギュラースタンスで、前足が36°の後ろ足27°なので角度差が9°ですね。STANCERが出た頃の数値とは多分変わっていると思います。この数値というのは今までの行動(滑り)の結果の数値なので、これ自体はどんどん変化するものだと感じています。
STANCERとの付き合い方
STANCERの数値に縛られることなく、自分が設定したいセッティングがあるのであれば、その形で滑り続ければ体を適応させることはできます。しかし、前足15°、後ろ足−15°のダッグスタンスの人がいきなり前振りのセッティングに変えたり、自分の数値から大きく離れた数値を手に入れようとするとすごく時間がかかるでしょう。ですので、とりあえずSTANCERで一度、自分の体の基準を理解して、そこから徐々に好きな形に近づけていくことをおすすめします。
───「自分が設定したい理想のセッティング」はどういう概念なのでしょうか
わたしの場合は、カービングに特化したかったのでカービングのために板を立てる必要がありました。ブーツが雪面に当たることを物理的に避けたかったので、アルペンっぽいアングルを理想のセッティングとしてなんとなくイメージしていましたね。つまり「理想の滑りの形を再現するためのセッティング」ということです。当時はダッグスタンスでその滑りに近づけようとしていたので、すごく足が痛くなった経験もあります。
理想の滑りに近づけるためのスタンス
様々なスタイルに特化したライダーたちが、自分たちのアングルを公開していると思うのでそれを参考にしつつ、自分の基準の数値を知っておけば、理想の滑り手とのセッティングの差を確認できます。そういった情報が世の中に出ていない時は、手探りでセッティングを探していたので時間がかかりました。「あのライダーの滑りの形はどんな角度差とアングルで実現しているのか」ということを知って、その稼働域に近づけるためのトレーニングをしていけば上達は早いと思います。
───次回、STANCE.LAB LIBRARY Vol.2ではオールマウンテンのフリースタイラーの方にお話を伺います。