谷川岳を安全に楽しめるフィールドへ──Mt.Tの取り組み、日本のスノーリゾートの安全基準づくりに挑む

谷川岳を安全に楽しめるフィールドへ──Mt.Tの取り組み、日本のスノーリゾートの安全基準づくりに挑む

yukiyama

2026.02.24

標高2,000m級の山々に囲まれ、圧倒的な積雪量と極上のパウダースノーを誇る谷川岳エリア。起伏に富んだ地形と急斜面が広がるこのフィールドは、滑り手たちにとって特別な存在です。2024年に名称を谷川岳天神平スキー場から「Mt.T(マウントティー)」に変更し、リブランディングを進めています。

豊富な積雪と滑りごたえのある斜度をもつ谷川岳は世界中の滑り手を惹きつける一方で、常に危険と隣り合わせのフィールドでもあります。リスクと隣合わせだった山を、いかに安全に楽しめるフィールドへ変えていくのか。今回は、Mt.Tの総支配人・間島氏にお話を伺いました。

スキー場運営のプロフェッショナル───総支配人・間島氏のキャリア

───まずはご経歴について教えてください

間島氏「1997年にスキー場勤務をスタートしました。当時は志賀高原で働いていて、ちょうど長野オリンピックの時期で、スノーボードも盛り上がってきていて、自分もその現場の中心で働きたいという思いがありました。その後、海外のインストラクターとしての指導方法や、スノー文化を学びに短期留学を経て、帰国後、白馬でインストラクターとして5シーズンほど働きました。その後、2006年に星野リゾートへ入社しました。ネコママウンテンでアカデミーやパトロールを担当し、その後はリゾナーレ八ヶ岳でスキー関連のアクティビティ事業の立ち上げや責任者を務めました。現場と経営の両面を経験してきた形です。そして2023年に谷川岳へ着任し、現在3シーズン目になります」

滑り手としても全日本テクニカル選手権に出場するなど、現場目線を持った支配人です。

滑りの経験も豊富な間島氏

山全体をパウダーフィールドと捉える、Mt.Tへのリブランディング

───名称をMt.Tへ変更した背景を教えてください

間島氏「スキー場という言葉にはどうしても固定観念があります。ゲレンデがあって、決められたコースを滑る場所、というイメージです。しかし谷川岳の価値はそこだけではありません。そこで、山全体をパウダーフィールドとして再定義したいと考えました。管理区域はもちろんスキー場ですが、Mt.Tとしてのコンセプトを「Ultimate Powder Field」として掲げました。

谷川岳は過去の事故などから、危険な山とも言われてきました。

「危険で険しいという言葉はネガティブに捉えられがちですが、その裏側には豊富な積雪という価値があります。この雪の量、急な斜面は魅力的で、そこにロープウェイでアクセスできるというのは世界的に見ても非常にポテンシャルの高い山です」

「ただし、魅力を発信する以上、安全対策は並行して徹底しなければいけません。魅力だけを語るのは無責任です。だからこそ、安全とブランディングをセットで進めています」

パウダーエリアへの人数を制限するという決断、料金設定の背景

───人数制限や料金改定について、どのような考えがありますか

間島氏「パウダーは有限の価値です。雪が降った直後に人が集中すると、雪崩・事故リスクが高まることがあります。リフト待ちがなく、安全で質の高いパウダー体験を提供するためには、適正な人数を維持することが必要だと考えています。現在は最大でも約300名程度を上限としています」

料金改定についても、意図は明確だと語ります。

「利益を最大化するためではありません。混雑を抑え、パウダーの価値を維持し、安全を確保するための判断です。『誰でも気軽に来られる山』というのは少し違うと思っています。特別感を大切にしたい。その代わり、来ていただいた方には『ここに来てよかった』と感じてもらえる体験を提供したいのです」

規制ではなくコントロールすることの大切さ

───安全対策として、特に力を入れていることは何でしょうか

間島氏「日本のスキー場文化は、『少しでも危険があればクローズ』という考え方が中心です。しかし私たちは、できる限りリスクをコントロールしてコースを解放する方向を目指しています」

Mt.Tでは、雪崩管理のプロフェッショナルを招き、自社のパトロールの育成や指導を強化。また、爆薬を用いたアバランチコントロールも実施しています。

「アバランチ(雪崩)の管理は、個人の経験や勘に依存するのではなく、組織として体系化することが重要です。日本ではまだ組織としての仕組みだったアバランチ管理の明確な基準に課題があります。だからこそ、私たちが先行してそういった仕組みを作っていきたいと考えています。将来的には研修センターの設立や、組織としての雪崩管理の基準づくりにも関わっていければと思っています」

yukiyamaアプリとの協業によるテクノロジーを活かした運営

Mt.Tでは、2024-25シーズンよりyukiyamaアプリを活用した安全管理対策を本格的に開始しました。初年度はアプリのグループ機能を活用し、ユーザー同士の位置共有による安全管理を実施。今シーズンは、ユキヤマ社との共同開発により機能を拡張し、チェックインユーザーの位置情報を安全管理や万が一の対応に活用できる体制を整備し、「救助・管理側へのリアルタイム共有」を実現しました。

───yukiyamaアプリとの連携について教えてください

間島氏「自然のフィールドである以上、リスクをゼロにすることはできません。だからこそ、テクノロジーを活用して万が一への対応力を高めることが重要だと考えています。yukiyamaさんの位置情報の提供のおかげで、、オフィスのPCからも正確な位置を把握できるようになりました。さらに、必要に応じて警察など関係機関にもログイン権限を共有できるような体制も構築しています」

実際にこの仕組みを活用した救助サポートの実績もあり、群馬県警察から感謝状が授与されています。

万が一に備える準備の大切さ、モバイルバッテリーの貸し出し

───モバイルバッテリーの貸し出しについても教えてください

間島氏「携帯電話(スマートフォン)は遭難時に発見されるかどうかを左右する重要なツールです。しかしながら、GPSを使えば電池の消耗は早いですし、低温環境では突然電源が落ちることもあります。常に連絡が取れることは重要ですが、それだけではなくyukiyamaアプリなどで滑走ログを取り続けるという点でもスマートフォンは大事です。そのためにモバイルバッテリーの貸し出しを行っています。こちらも非常に重要な取り組みだと考えています」

モバイルバッテリーレンタルの設置

アバランチギアのレンタル体制の充実

───アバランチギアのレンタルの取り組みについて教えてください

間島氏「ビーコン、ショベル、ゾンデ、バックパック、ファットスキー、テックブーツ、シールなど普通のスキー場にはなかなかないラインナップを揃えています。忘れてしまった方や、新たに試してみたい方が現地で装備を整えられる環境を作っています。ビーコンチェッカーや雪崩情報を常に確認できるモニターも設置し、基本的な確認ができるようにしています。装備面での不安を減らすことも、安全につながっていくと思います」

滑るだけでなく安全を学べるフィールドへ、ビーコントレーニングの構想

───スキー場が行うビーコントレーニングの構想について教えてください

間島氏「ビーコンは持っているだけでは意味がありません。使えることが重要です。お守りではなく、実際に使いこなせるようになることが大切です。ただ、実際にその使い方を気軽に学べる場所は多くありません。そういったアバランチギアの使い方を学べる環境をMt.Tで整えることで、安全意識の底上げを図りたいです。海外のパウダー主体のリゾートでは、こうしたトレーニングの仕組みがあるところもあります。日本でもその文化を育てたいと思っています」

コアな滑り手たちが集まるフィールドとしてMt.Tがこれから目指す姿

───最終的にMt.Tはどのような場所を目指していますか

間島氏「ここで滑ることがステータスになる場所でありたいと思っています。ですので、ある程度、難易度が高く挑戦しがいのある場所であってほしいと思っております。その代わり、来ていただいた方には特別価値のある体験を提供したいです。コアな滑り手たちが認める聖地でありたいですね。多くの人を集めることよりも、フィールドの質を高めることを重視しています。安全と魅力の両立は簡単ではありません。しかし、リスクのあるフィールドだからこそ挑戦する価値があります。私たちが仕組みを整え、責任を持って運営していく姿を見せることは、日本全体のリゾートの在り方を考えることにも繋がっていくと思っています。」

自分たちのフィールドの安全管理だけではなく、リゾートを横断したアバランチ管理者の育成など、Mt.Tは日本全体のスキー場アバランチ管理の基準になれるようなフィールドを目指しています。