スキー・スノーボード業界の面白いストーリーを独自の切り口でNEWSNOWMEDIAが紹介。今回はスノーボードが題材のマンガを描いている漫画家のMUSASHIさんに焦点を当て、スノーボードのマンガを書くことになったキッカケやリアルな表現の裏側を深堀りします。
唯一無二のスノーボードマンガの誕生
「好きなことを描け」というアドバイス
まだ駆け出しの頃にサスペンス系のマンガを描いていたのですが、編集部に「その路線は若いからちょっと難しい」と言われました。その流れで「なにか趣味とか好きなことはないの?」って聞かれたので「一応、趣味でスノーボードやってます」と答えたら「じゃあ、その題材で描いて持ってきて」と言われ、そこでスノーボードのマンガを描くキッカケができました。その際に初めて描いたスノーボードの作品で努力賞を取って、その次の作品も佳作を取ることができたので、そこから本格的にスノーボードを題材にしてマンガを描くことになりました。
───マンガを描くことに興味を持ったのはいつくらいだったのでしょうか
そうですね、絵を描き始めたのは小学校の低学年ごろだと思います。絵を描くこと自体が好きでした。不要な紙に落書きみたいなものを描くところからスタートしましたね。マンガを描こうと初めから思っていたわけではなく、たまたまテレビで『聖闘士星矢』を見て、アニメ作品がもともとはマンガからスタートしているということを知って、興味を持つようになりました。
───本格的に漫画家を目指すことになったのはいつくらいだったのでしょうか
高校卒業後に美術系の専門学校に進学し、基本的なデザインやデッサンなどを学びました。18歳ごろにマンガを描きたいと思うようになり、本格的にストーリー作りやコマ割りに取り組み始めました。その後、約1年くらいで賞を受賞することができて、出版社の担当者がつきました。これが20歳くらいですね。「自分の好きなことに焦点を当てるべきだ」というアドバイスを受けて、スノーボードのマンガを描くことに挑戦して、そこから漫画家人生が始まりました。その後、スノーボード専門誌で10年ほど連載していました。
作品のベースは自身のスノーボードの原体験
滑り手だからこそ出せるリアリティ
スノーボードを始めたのは16歳くらいでしたね。いとこが「私をスキーに連れて行って」の映画世代で、小さい頃からスキーに連れて行ってもらっていました。高校生の頃にスノーボードが世間的に流行り始めて、友達とやってみたのがキッカケです。
───マンガのストーリーはご自身のスノーボードの体験から生まれているのでしょうか
はい。実際に滑った体験からインスピレーションを得てマンガに落とし込んでいます。また、プロの人から聞いた話で使えそうなものがあれば参考にしていますし、スノーボード雑誌のインタビューなども参考にしています。
───スノーボード特有のスタイルや表現が作画の中で非常に上手く捉えられているように感じます
スノーボードをやっている人から見て違和感がないようにしたいと思っています。例えば「このジャンプの時に、こういう体の軸にはならない」みたいなことは特に意識して気をつけていますね。
スノーボードという題材にこだわりつづける理由
誰もやっていないことへの挑戦
題材として、難しいことをやろうとしているのは分かっています。でも、既に誰かが描いているジャンルの作品を描くより、スノーボードという誰も描いていないジャンルで読まれる作品を生み出すことに価値があると思っていますし、そこにこだわりがあります。
───難しいと分かっていながら挑戦しつづけるのはなぜでしょうか
例えば、メジャーな野球やサッカーだと次々に新しい作品が生まれていますが、そこは自分の役割ではないと感じています。自分がスノーボードをしているというアドバンテージを活かしたいですし、このジャンルの第一人者でありたいと思っています。「わかりやすい題材のマンガを描いて、売れる作品を狙ったほうがいいのではないか」という意見もありますが、スノーボードが好きなので、この題材で描き続けたいです。
スノーボードの専門誌の枠から、まだ出られていないと思っているので、一般的な商業誌で露出できるところまで持っていきたいです。もしそこが難しくても、今はWEBで自分で発信できるので、そこでスノーボードマンガの起爆剤になれたらなと思っています。「スノーボードマンガといえば、この人でしょ」というレベルにはなりたいですね。
マンガでスノーボードを表現する難しさ
スノーボードは表現のスポーツというか遊びなので、サッカーやバスケのようにルールや点数がありません。普通のスポーツだと勝ち負けがあるので分かりやすいですが、スノーボードにはそれがないのでストーリーの伝え方に難しさを感じます。例えば『ブルージャイアント』は題材がジャズなので、直接勝ち負けがあるわけではなく、どちらかというと表現が重要視されるようなジャンルです。でも、世の中から評価されて売れている実績があります。そのような作品があるということは、スノーボードマンガでもそういうことができる可能性があるはずです。なのでできるかどうかは、自分の実力次第でどうにかなると思っています。現状、連載まで進まなかったりすることは多いですが、そこは自分にまだ足りないところがあると思って、日々チャレンジしているような感じですね。
───MUSASHIさんがマンガを通して伝えたいことや想いはありますか
受け取り方や感じ方は読み手の方々におまかせしますが「スノーボード面白そうだな、やってみたいな」という風に思ってもらって、スノーボードのかっこよさは伝えたいと思っています。スノーボード自体が遊びから始まったものでもあるので、自分の作品からはあまり難しいことを伝えたいという気持ちはなくて、一つのエンタメとして消費してもらえれば嬉しいです。
───マンガをキッカケにスノーボード人口が増えるとすごくいいですよね
そうですね。それはすごく嬉しいです。そのキッカケの入り口としてマンガはすごくいいコンテンツだと思っています。「マンガを通じて業界を活性化させたい」みたいな大きなことは考えていませんが、マンガを読んで楽しい時間を過ごしてもらって、結果的にそれが業界の活性化に繋がっていけば嬉しいです。
プロフィール
MUSASHI
東京都出身。スノーボード専門誌Transworld SNOWBOARDING JAPANにて「BOARDER LINE」で連載デビュー。第69回ちばてつや賞 奨励賞、「SHREDDERS」で少年ジャンププラススポーツマンガ賞 大賞受賞。「府中三億円事件を計画・実行したのは私です」をジャンププラスにて連載、単行本化。
・X(Twitter) https://twitter.com/MU5A5H1